在宅訪問スペシャリスト:鈴木邦彦氏インタビュー
薬局薬剤師最前線
2021/07/09
〇〇プロフィール紹介〇〇
鈴木邦彦氏
<ご略歴>
2006年3月 第一薬科大学薬学部 卒業
2008年3月 共立薬科大学大学院 医療薬学コース専攻 修了
2008年4月 東京高輪病院 薬局勤務
2010年2月 河北総合病院 薬剤部勤務
2016年12月 株式会社pff ファーミック薬局勤務
2018年7月 ワイズ株式会社 つなぐ薬局勤務(現職)
<所属団体・学会>
一般社団法人ミライ☆在宅委員会 学術委員担当
日本老年薬学会
在宅医療連合学会
――簡単な自己紹介をお願いいたします。
現役看護師の妻と、今年の8月に3歳になる息子と3人暮らしをしています。子供の成長をブログにまとめたり、見守るのが趣味です。最近は、子供と一緒に電車や自然と遊ぶのが楽しくて仕方ないですね。リフレッシュするときはゲームもよくやります。モンハンを深夜までやりつづけています。
――訪問スペシャリスト薬剤師としてご活躍されていますが、どのような肩書きになるのでしょうか?
まず、うちの薬局は外来も受けているので、訪問強化型薬局という括りになります。その中で、訪問専門薬剤師という肩書きで働いています。社内の認定制度ですけどね。訪問専門薬剤師には、
・処方提案力
・処方に対する迅速かつ的確な判断力
・育成力
・他職種連携
などのスキルが求められています。
――大学院→病院→調剤薬局→訪問強化型薬局と、非常に珍しい経歴ですが、それぞれの転職について詳しく教えてください。
① 卒業→大学院
大学受験時に希望する大学に行けなかったので、在学中は劣等感を感じていました。働く現場としては病院しか考えていなかった中で、この劣等感をもったまま病院で働けるのか、臨床薬剤師として患者さんの役に立てるのか、と不安だったんです。何か臨床現場で武器になるものをしっかり学んでから現場に出ようと考え、大学院で学ぶ決意をしました。
大学院はいくつか検討したのですが、臨床に強いと評判の慶應大学(当時共立薬科大学)を選びました。
ただ、大学院を出て病院に勤めた時に、「一度現場に出た後で大学院に通う」というキャリアも有りだったな、と感じました。大学院で学んだことを持って現場に出て、「あそこで学んでいたのはこういうことか」とわかりました。もしその課題を先に知ることができていたら、大学院での勉強の質がより高まったかもしれない、ということです。
大学院では、「日本の臨床薬学は遅れているからアメリカで学びなさい」と言われて海外研修に行きました。アメリカでは薬剤師がとても活躍していました。その背景にある一番の要素は、学習量ですね。今の日本の薬剤師はもっともっと勉強しないといけない。勉強して、臨床キャリアを積んでいかないと、他職種からまだまだ認められないと思います。
② 大学院→病院
大学院卒業後の最初の勤務先は、大学の教授から勧められて決めました。働く場所についてはあまり深く考えず、とにかく臨床現場に出ることへの期待でいっぱいでしたね。いろいろ勉強になった中で、特に循環器病棟での勤務経験は、僕を循環器領域の虜にしました。
最初の病院勤務から2年も経たないころに、大学院時代の先輩にヘッドハンティングされ、より臨床に取り組める職場を求めて転職しました。そこでは7年間のキャリアを積んだので、今の僕の臨床スキルの礎はそこにあります。
③ 病院→調剤薬局
調剤に行こうと思った理由は3つあります。
1つ目は、病院薬剤師の給与面への不満。
2つ目は、自分のプライベートの時間がとれなかったこと。
3つ目は、薬局薬剤師と連携を取っていて、その働きぶりに不甲斐なさを感じたことです。
その不甲斐ない薬剤師が自分より高い給与を貰っている、ということには大いに不満を抱いていました(笑)。具体的な事例で言うと、患者さんのインスリン単位数を把握していないとか、週1回服用する薬の服用曜日を知らないとか、吸入薬の使用回数も把握できていないとか。このままでは調剤薬局業界はまずいと感じ、業界を変えていきたいという強い思いで調剤薬局業界へ飛び込む決意をしました。
行き先としては、大手ではない中小規模で考えていました。その方が自分の考えでいろいろな取り組みができるかなと思ったんです。丁度知り合いを通して良いお話をいただくことができて、ファーミック薬局に勤めることになりました。
④ 調剤薬局→訪問強化型薬局
ファーミック薬局での勤務の中で一番嬉しかったのは、在宅訪問という自分のためにあるような仕事に出会えたことです。臨床スキルを発揮できるし、自分の性格的にも合っている。「これだ!」と思いました。自分が全力を注ぐのは在宅訪問の仕事だと直感的にわかりました。
そこで、病院時代の同期から、在宅強化型薬局でスキルを生かして欲しいという話をいただきました。すぐに決断はできず、休みの日を利用してまずバイトをさせてもらいました。その結果、より在宅訪問に注力できる環境だと感じたので、在宅訪問漬けの生活を目指して転職を決めました。
――現在は在宅訪問に特化した業務を行なっているとのことですが、スケジュール詳細を教えてください。
新規在宅などがあると時間をとられるのでだいぶ変わってきますが、平均的にはこのような感じです。
――訪問専門薬剤師のやりがいを教えてください。
まさに臨床の現場で仕事ができる。患者さんのリアルが見える。そこが一番です。患者の服薬状況を目の前で確認できますから。服薬状況や体調変化を目前で見ていると、医師に提案もしやすくなります。2ヶ月に1回外来で見ているより、毎週現場を見ている方が、説得力が上がりますよね。
あと、患者さんが自宅に僕を招き入れている時点で、ある程度心を許しています。なので、入り込みやすいんです。いろいろな話がしやすいし、コミュニケーションをとりやすい。家にかざってある写真などから、過去のエピソードや性格、家族環境、趣味なども見えてくる。そのようなことから人間関係を構築していくと、患者さんも頼ってくれるんです。その延長で、一緒に課題を考えて、解決方法を探していくことができます。
――給与面はいかがでしょうか?
訪問専門薬剤師の認定を受けているので、給与はいいですよ。訪問専門薬剤師として活躍できれば、一般的な調剤薬局の管理薬剤師くらいもらえます。
――在宅訪問業務にあたり、日々心がけていることを教えてください。
その患者さんは何を一番してほしいのか、どんな課題があるのか、それをどう解決していくか。解決のための【行動】を起こすようにしています。訪問していて問題解決できなければ、何のために訪問しているのかわからない。「訪問して〇〇をやっている」という自負も必要だし、患者さんにも感じてもらうことが重要です。
あとは患者さんのちょっとした変化を感じとるように意識しています。「尿臭がしている」「飲み忘れが以前より少し増えた」など。それらを感じ取って、必要があればすぐに医師や他職種と連携するようにしています。
――モチベーション維持の方法や、勉強方法を教えてください。
在宅訪問の仕事が楽しいので、その場に身を投じるだけでモチベーションがあがります。課題を感じたらすぐにそれを解決したくなる。患者さんに会い続けることがモチベーションを保つ方法ですね。
勉強は、電車の通勤時間を活用しています。あとは、学会やミライ在宅委員会に積極的に参加することで知識をアップデートしています。
――新卒薬剤師や、在宅訪問未経験の薬剤師でも、訪問専門薬局で働けますか?
できます。
実際に、未経験の人もうちに来て働いていますよ。訪問薬剤師として頑張りたいというやる気があれば、やっていけると思います。経験豊富な先輩がしっかりフォローもしますからね。新卒でもなんでも、やれますよ。
――学会発表や、医師への情報提供、資料作成などのスキルはどのように身につけられたのですか?
学生時代に塾講師のバイトをしていたので、話すことには慣れていました。スキル自体は、大学院病院研修中に、毎月症例発表をしていたので、そのときに身についたと思います。あとは、動画でプレゼン技術の勉強をしたりもしましたね。
一番大事なのは、発表や質問の機会があったら「自分やります!」と積極的にやることです。プレゼンとかは場慣れが一番重要なので、強制的に慣れさせましょう。
――様々な経験をもつ鈴木さんから、転職希望者や薬学生にメッセージをお願いいたします。
一言でいいます。「現場を見に来てください。」
HPや文面では、何も感じられないと思います。まず現場を見学して、どういう風に働いているか、どんな仕事をしているか、見に来た方が良いです。そのときに自分がそこで働くイメージができるかどうかで、就職先・転職先を判断したらいいと思います。
――今後の目標などがあれば教えてください。
実習に来た学生に「なんで薬剤師になったの?」と聞いたことがあるんです。
そしたら、「稼げる」「給料が安定している」という回答でした。
そういう学生に、臨床の楽しさをいかに伝えていくか、に今は情熱を注いでいます。
「薬の調整」を見に来た、と言っていたんですが、いやいやいや待ちなさいと(笑)。調整ではなく「薬剤管理指導」をいかに行うか。それを教えたいし感じ取ってもらいたいんです。
薬の調整を見に来たと言っていた薬学生から、「薬剤師がこんなに臨床に介入できるんですね」「私、臨床でがんばる薬剤師を目指したいと思い始めました」と言われたことがあり、そのときはとても嬉しかったです。
今後も、臨床の楽しさをしっかり伝えられる薬剤師が増えていく必要があります。僕もできる限り、臨床薬剤師として後輩にやりがいを伝えていきたいです。
「薬剤師が楽しく働けるようになる」というのが僕のミッションです。
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